キマイラ文庫

ビューワー設定

文字サイズ

フォント

背景色

組み方向

目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode136

悪役令嬢、絶体絶命。

 遥か昔――名君との呼び声高い先々代魔王ギルティアスによる統治時代よりも更に昔のこと。当時の魔王によって地獄から追放された悪魔がいた。

 悪魔は狡猾さと悪辣さゆえに地獄を追われたが、その狡猾さと悪辣さゆえに当時まだわずかながらも親交のあった天国に潜入することに成功した。

 悪魔は言葉巧みに、いかに地獄が極悪非道な世界であり、いかに自分たちが苦しい生活を強いられてきたかを、涙ながらに語り聞かせた。

 純真無垢な心を持つ神と、その神を盲信するだけの天国の住人たちに抗うすべはなく、いとも簡単に洗脳は完了した。


 以降、悪魔は神の使徒、大天使を名乗るようになった。

 神を傀儡とし、天国の住人たちを洗脳支配し、天国を自分たちの都合のいい世界へと変えていった。

 自らの手足となって動く天使を大量に増殖し、天国の異変を地獄に察知される前に、天国の門を建造。地獄との往来を完全に封じることにした。

 そうして天国は大天使を詐称する悪魔とその手先たる天使たち……Gの手に落ちたのであった。


「それなのに、どうしてこうなった!?!? あのエトランジュとかいう小娘が地獄の魔王になってからというもの、無茶苦茶だ!! 元執事を取り戻すためだけにわざわざ天国を侵略するだと!? あり得ない!! せっかく建造した天界の門もあっさり破壊しやがって……!! 一体、あれの建造にどれだけの費用と年月がかかったと思っている!? 天国に侵攻してからもやりたい放題! クリーニング工場での大破壊劇!! 天使たちへの容赦ない無差別攻撃!! しかし、あの小娘の両親や親族を人質に取れば、ワシを追放した地獄を我がものできる千載一遇の大チャンス!! ……だったはずなのに、あの小娘ときたら肉親を人質に取っても微動だにしないとは!! なんなのだ、あの小娘は!!?」


「なるほど。天国がおかしくなったのは、すべて貴方の仕業だったのですわね」


「き、貴様、なぜそれを知っている!!?」


「冒頭から全部まる聞こえでしてよ。やはりGはこの世からもあの世からも消し去るのが平和への近道のようですわね」


「くっ……!!」


「観念なさい。貴方に勝ち目はありませんわよ」


「ぬはははははは! 果たして、そうかな!!?」


 ゴキゼブブの瞳がギラリと光る。

 すると、何者かがワタクシを羽交い絞めにする。

 ば、馬鹿な……!?

 こうもあっさり敵に背後を取られるとは!!

 しかし、どうも様子がおかしい。

 背後の男は、ワタクシの喉元にナイフを突き立てたまま硬直し、手をわなわなと震わせている。

 この手、このナイフ、それにこの匂い……。

 まさか、背後にいるのは……。


「やめてください、ジュエルさん!! 一体どうしたっていうんですか!?」


 悲痛な声を上げるスイーティアが、背後にいるのが誰なのかを教えてくれた。


「ジュエル? ジュエルなの……?」


 問いかけるも答えは返ってこない。


「ぬはははははは! 油断したな、小娘!! 洗脳前にその男を救出できたと思って喜んでいただろう!? ちっちっちっ。違うんだなぁ。その男にはワシがテレパシーを送ればどんな命令でも聞くように特別な洗脳を施しておいたのだ!!」


「なんと狡猾で悪辣な男なのだ……。当時の魔王が追放処分にしたのも頷ける」


「追放処分じゃなくて殺処分すべきだったね」


 かつて魔王だったネコタローとアホーボーンが忌々しげに言葉を絞り出す。


「ぬはははははは! 小娘よ!! わざわざ地獄から取り戻しに来たということは、その男はお前にとってよほど大切な男なのだろう!? ただならぬ関係なのであろう!? いくらお前が血も涙もない悪魔のような人間だとしても、その男だけは見捨てることはできまいて!!」


「何と不埒な男じゃ……! 悪魔の風上にも置けぬ!」


「いいや、お姫さんよ。コイツはもう悪魔じゃねえよ。もちろん、天使なんかでもねえ……。コイツはゲロ以下のくせえ臭いがぷんぷんする腐れ外道だぜ!!」


 怒り心頭、顔を真っ赤にして頬をぷくりと膨らませるアリア。

 シュワルツに至ってはゴキゼブブが地獄の悪魔だという事実すらも認めたくないようだ。


「ぬはははははは! 雑魚どもが、ぴーちくぱーちくと五月蠅いわ!! さあ、ジュエルバトラーよ!! 我がしもべよ!! その生意気な小娘の首をナイフで切り落としてやるのだ!!」


 ふむ。なるほど。

 どうやらこれはワタクシの首が胴体と離れ離れになる、人生二度目のピンチのようだ。