キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode112

悪役令嬢、闇魔法全開+合体技披露。

 クリーニング工場と呼ばれる忌まわしい人間洗脳工場は、さすがは神の手によるものだけあって禁呪である闇魔法メテオの一撃にもビクともしなかった。これなら100人乗っても大丈夫、いや100発撃っても大丈夫だろう。

 しかし、工場内を支配している機械たちはそうはいかない。精密で繊細で非戦闘員である彼らは防御力がほぼ0に等しく、あえなく四散した。どれだけ高性能な機械でもこうなってしまえば、ただの燃えないゴミでしかない。


 禁呪を放っても体調に問題なし。魔力回路も正常に機能しているようだし、レベルキャップも外れているから、もうバグが発生する心配もなさそうだ。

 よし。準備運動、終わり。エンジン全開でいくといたしましょうか。


「鉄血の英霊たちに告げる。盟約に従い、我が手に集え。マグネチート」

「黒炎の女王に命ずる。我が道を妨げる存在を融解せよ。メルティアラ」


 上位の闇魔法を連発してみるが、これも問題なし。

 これなら万全のコンディションで神との戦いに臨めそうだ。

 ちなみに闇魔法メルティアラで融解した機械は、もれなく魔王エトランジュ像としてリサイクルしてある。これなら燃えないゴミじゃなくて歴史に残るアートだ。


「絶好調じゃねえか、姐さん。俺たちも負けちゃいられねえな」


 言いながら湯水のように湧き出す機械たちに向けて重火器を撃ちまくるシュワルツ。戦場にいる彼は水を得た魚のようだ。


「ええ、ご主人様があの調子だと家来がサボっているように見えてしまいますからね。我々も必死で戦わないと。まったく、このご主人様にお仕えするのは大変ですよ」


 軽口を叩きながらヒッヒは両手に持った短剣を機械の関節部分に突き立てていく。迅速に、正確に。


 ずしーん。ずしーん。

 激しい戦いの中でも聞き取れるほどの大きな地響き。

 何事かと思えば、そこにはひと際大きな鉄の塊のごとき機械が接近してくる姿が見えた。

 これは巨大化の闇魔法ギガンテスの出番か、はたまた暗黒竜化の闇魔法ドラゴニアンの出番か。


「ここはアタシたちに任せて、エトランジュちゃん! いくわよ、ベロ!」

「あいよ、ケル姉!」


 獣人三姉妹が長女ケルと次女のベロが名乗りを上げる。

 ケルが右手を、ベロが左手を差し出して、手のひら同士を合わせる。

 なんだなんだ? 何をする気だ? 合体技か?


「「変・身!!」」


 二人の身体がまばゆい光に包まれる。

 光の中から登場したのは、一匹の大きな獣だった。

 ケルベロス?

 いや、首が三つじゃなくて二つだ。これは……。


「オルトロスか。なんとまあ器用なことだ」


 感嘆の声を上げたのはネコタロー。先々代魔王ギルティアスとして、かつては獣人三姉妹の主だった身だ。その彼さえも知らない変身とは、ひそかに特訓してきたに違いない。ふふふ。やってくれるではないか。

 双頭の魔獣オルトロスに変身したケルとベロは、巨大な鉄の機械を鋭い爪でバターのように瞬く間に切り裂いていく。

 ケル×ベロ×スー=ケルベロス。ケル×ベロ=オルトロス。

 ……ということは、ケル×スー、ベロ×スーの組み合わせだと何に変身するのだろう?

 広がる可能性にワクワクする。


 それにしても仲間たちの活躍がすごい。

 みんな、ワタクシの知らないところで秘密の特訓をして、新技を開発している。

 こうなってくると負けちゃいられないという気持ちがふつふつと湧いてきて、うずうずしてくる。

 ずっと我慢してきたけれども、そろそろ可愛い弟イグナシオのすごさを自慢したい。

 こと武器兵器の開発においては彼の右に出るものは地獄広しと言えどいない。自慢したいのはそこではなく、ワタクシとの秘密の特訓で鍛え上げられた戦闘能力のほうだ。

 これまでは指揮官たる者、一歩引いたところから戦況を俯瞰して見ることを意識してきたこと、トップが身内を贔屓するのは憚られることから、イグナシオには悪いが戦闘シーンにおいては活躍の場を用意してこなかった。

 しかし、仲間たちがこれほどの躍進ぶりを見せているからには、これ以上の遠慮は無用、これ以上の隠し立ては宝の持ち腐れというものだ。


 当のイグナシオと言えば、元は主従関係にあったシュワルツと背中合わせで重火器を使いこなし、機械たちを破壊している。なかなか息の合った戦いぶりだ。

 これはなおさら負けてはいられない。


「イグナシオ! 例のアレをやりますわよ!!」


「え? わ、わかったよ、お姉様!!」


 一瞬の戸惑いを見せるも、すぐさま応じるイグナシオ。

 機械どもよ、愛する弟と秘密の特訓の末に編み出したるこの合体技を喰らうがいい。


「「必殺!! 姉弟神器(きょうだいじんぎ)!!」」


 背中合わせに互いの腕をガッチリと組みながら、愛銃のWSCディフェンダーを両手に握り締めて戦う。

 時には回転し、時には宙を舞い、前後左右天上天下360度対応のこの合体技に死角はない。ついでに姉弟の絆も深まるので言うことなしだ。


「エトランジュちゃんたら、相変わらず無茶苦茶ね」

「あれで闇魔法の禁呪まで使えるってんだから、もう無敵じゃねえか、うちの姐さんは」

「僕はもう驚きませんよ、ご主人様から何が飛び出そうとも」


 呆れ顔で我が姉弟の合体技を評する仲間たち。

 あれ? おかしいな。ワタクシはイグナシオの自慢をしたかっただけなんだけど。


「おーい、エトランジュ。その辺にしとかねえとイグナシオに嫌われちまうぞ?」


 良識派のベロが意味不明な発言で上機嫌に水を差す。

 なぜワタクシが嫌われるというのだ。まるでワタクシが無理やりイグナシオを付き合わせているようではないか。失敬な。

 ねえ、イグナシオ……?

 ん?

 イグナシオが目を回して気絶している……。

 糸の切れた操り人形のように手足をぷらぷらさせている……。

 どうやら調子に乗って回転しすぎてしまったようだ。

 思い返せば、この合体技の特訓をしていたときもイグナシオは顔を青くしたり、事前に酔い止めの薬を飲んでいたような気がする。

 ごめん、イグナシオ。

 あとでギュッと抱き締めてお詫びするとしよう……。


「ふぅ、どうやら片付いたようですわね」


 どうにも締まらない幕切れになってしまったが、工場内にはもう抵抗する機械は存在せず、山のように積み上げられた燃えないゴミと美しい美術品(魔王エトランジュ像)が立ち並んでいるだけだ。


 ガラッ。

 ガラガラッ。


 いまだ粉塵と硝煙が舞う戦場後に物音が響く。

 仲間たちは一斉に物音がした方向を警戒する。

 ワタクシも気絶したイグナシオを抱きかかえながら銃を構える。


「これは何事だ……?」


 この声は……。

 忘れもしない、この声は……。


「一体、何があったんだ? エトランジュお嬢様がファイアドラゴンを退治したときと変わらないぐらいひどい有様じゃないか。あのときのお嬢様ときたら、俺が止めるのも聞かずに……」


 この声、この小言めいた口調……。

 ああ、懐かしい。

 機械の屍の山をかき分けて現れた人物。

 それは――


「ジュエル!!」


 こうしてワタクシは幼馴染であり執事のジュエルバトラーとの再会を果たしたのであった。