エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode126
幕間狂言:正ヒロイン、光の聖女に認定される。
今日は残りわずかとなった重大イベントの一つ、待ちに待った光の聖女認定式典の日。
先週から王都グランベルクは大賑わい。光の聖女と言えば神の代弁者にして、誰しもが畏れ敬う伝説級のレア職業。必然、その姿を一目見て、あわよくば知己を得ようとエーデルシュタイン王国以外からも多くの王侯貴族が我先にと争うように押し寄せている。その数、1000は下らない。
それら有象無象の連中を王城にある大聖堂に何とか押し込めて、本日晴れて光の聖女認定式典が開催される運びとなったのだ。
私は今、世界中から集まった王侯貴族を高みから見下ろしている。
実に清々しい気分だ。
神の代弁者どころか、私自身が神になったような錯覚さえ覚える。
いや、あながち錯覚とも言えないか。私は間もなく光の聖女に認定され、生きとし生ける者すべての敬愛と崇拝の対象となるのだから。
この記念すべき式典を取り仕切るのはエーデルシュタイン王国宰相だ。
王族暗殺計画の主犯として処刑された(させた)お父様に代わり、現在は私の婚約者である第一王子が宰相を務めている。
先刻から私が光の聖女に相応しい証と功績を声高らかに読み上げている第一王子。
顔もいいけど、声もなかなかの美声だ。
でも、私としては彼のベッドの上での荒々しい息遣いの混じった声が一番好き。
第一王子の口からは、勇者パーティーの復活、魔王とのラストバトル、危機に瀕した勇者たちの生命の救済、そして光魔法によって魔王である暗黒竜を見事打ち倒したことが順を追って述べられていく。
会場からは時折「おおっ」「なんと」など感嘆の声が上がる。
でも、大半は嘘だ。
光の聖女の称号が欲しくて、存在しない魔王を退治するために勇者パーティーを結成しただけだし、魔王はジュエルがでっち上げた偽物だ。
危機に瀕したのは嘘ではないが、実際には危機どころか第一王子以外はぐちゃぐちゃの肉塊となり果てた。まあ、その肉塊を多少無理やりだとしても蘇らせたわけだから、命を救ったと言えば救ったと言えなくもないが……。果たしてアレを「生命の救済」と言ってもいいものかどうか。ふふふ。
倒した魔王は偽物だし、その偽物の魔王は暗黒竜ではなく聖白竜だったし、倒した手段も光魔法ではない。とんだ詐欺だが、このあたりは光属性の聖女たる私が倒した相手が同じ光属性最強の生物である聖白竜よりも、対立する属性であり邪悪なイメージの強い暗黒竜にしておいたほうが何かと都合がいいから脚色しておいたのだ。
これには闇属性および闇魔法への差別意識を高めておくという意味合いもある。
エトランジュはすでにあの世へ行ったが、染みついた習慣というものは簡単に変えられるものではないし、闇へのイメージを下げておけば光の聖女となる私の需要と価値がますます高まるので今後も闇属性と闇魔法へのネガティブキャンペーンは続けていくことにする。
嘘に塗り固められた功績に、参列している世界の名だたる王侯貴族は感嘆の声を上げ、尊敬のまなざしを送り、中には早くも手を合わせて祈りを捧げ始めている者までいる。
チョロい。
なんてチョロいんだろう。
私が光の聖女である証とその功績をすべて読み終えた第一王子に続き、今度はエーデルシュタイン王の出番だ。
玉座から立ち上がった王がうやうやしいしぐさで光の聖女に与えられる『聖なるティアラ』を手にする。歴代の光の聖女は皆、この聖なるティアラとやらを頭上に戴いたという言い伝えがあるらしい。
しかし、エーデルシュタイン王家が代々保管してきた聖なるティアラを目にしたときはガッカリしたものだ。何がガッカリって、とんでもなく地味だったのだ。
聖なるティアラが最初に作られた時代は、まだ現在ほど豊かではなかったのだろうが、それにしてもしょぼかった。あんなしょぼいものを光の聖女認定という重大イベントに使うなんて論外だし、どんな女が使ったかもわからないお下がりで安価に済ませようなんて根性も許せない。
よって、このたび新調することにした。そして金銀プラチナにダイヤ、ルビー、オパールなど、私が大好きな貴金属と宝石を贅沢に使った逸品『新・聖なるティアラ』が完成したのだ。
本物の聖なるティアラ?
あんなもの要らないからゴミ箱へポイ♪ 燃えないゴミとして処分させたわ。
「アンジェリーナ・フォン・ランデール。こたびの魔王退治の活躍、見事であった。その功績を認め、ここにそなたを――」
「……僭越ながら、国王陛下。お忘れですか? 私は現在ローゼンブルク公爵家の家督を継いでおります」
この無能な王に記憶力を期待するのは酷だというのは先刻承知の上だが、ここは譲れない。せっかく苦労してエトランジュのやつを始末して、ようやく手にしたローゼンブルクの家名なのだから。
「おお、そうであったな。しかし、その名も近々息子の妃になれば変わるわけだから、そう細かいことを気にする必要はなかろう」
ちっ。
この愚鈍な王は何一つわかっていない。
私とて所詮は公爵位でしかないローゼンブルク家に大した執着があるわけではない。私がローゼンブルクの家名にこだわるのは、それがあのエトランジュに勝ったという証明だからだ。
だが、そのことをこの暗愚な男に察しろと言っても土台無理な話か。
結局、言い直すことはせずに、王はそのまま聖なるティアラをひざまずく私に授けた。
「ここに汝を光の聖女と認める」
声だけはいっちょ前に厳かな王の言葉が大聖堂全体に響き渡る。
それを受けて、参列者たちが一斉にうわっと歓声を上げる。
王は馴れ馴れしく私の手を取り、もう片方の手で観衆たちの声に応える。
なぜ、お前が偉そうしている? お前は何一つ役に立っていないだろう。それなのに自分の手柄のように誇らしい顔をして、私の隣で胸を張っているとは何様だ? 厚かましいにも程がある。
この男もそろそろ目障りになってきたな。
さっさと傀儡にして第一王子を摂政にでもするか。
それとも、いっそ王と王妃にはご退場いただき、一気に第一王子を即位させてしまうのもいいかもしれない。
そうすれば王太子妃ではなく、一足飛びで王妃になることができる。
王妃アンジェリーナか……。
うん、いいかもしれない。
そうと決まったら、善は急げ。
今夜、さっそく計画を練るとしよう。第一王子が隣で寝息を立てるベッドの上で……。ふふふ。