エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode104
悪役令嬢、天国の門を……(選択肢)
「猫型移動要塞マカロン、発進せよ!!」
ちょっぴり魔王らしく威厳を込めて言ってみた。
飛び立った新生マカロンのブリッジから見渡す地獄の風景はなかなか壮観だ。見晴らし良好。各種刑罰に応じた特色ある地形は人間世界ではお目に係れない珍しいもので、火責めのエリアは赤、水責めのエリアは青と色彩も豊かで、広大な極彩色の地獄絵図が形成されている。
目的地は『天国の門』と呼ばれる大関門。
天国と地獄が仲良しこよしなんてことはないとは予想していたけど、唯一の通行可能なのが門ひとつだけとは思わなかった。しかも、先代魔王アホーボーンはもとより、先々代魔王ギルティアスが在任していた期間中にもただの一度も開かれたことはなかったらしい。
その長らく固く閉ざされていた門をこのたびこじ開けて差し上げようというのだから、魔王就任して早々に歴史に残る偉業を成し遂げることになる。自分で言うものなんだけど、ワタクシってすごいと思う。
「一挙手一投足がいちいち偉業として歴史に残されていくというのも考えものですわね」
ふう、と物憂げにため息などついてみる。
「そう思うなら、買い物気分で武器商人に戦いを仕掛けたり、ちょっと気に入らないからって魔王を退治したり、天国を侵略しに行くのはやめたほうがいいぞ」
と忠告したのは艦橋から地獄を見下ろすワタクシに抱っこされているネコタロー。
「あら、ワタクシはただ快適でエレガントでゴージャスでスイーツな第二の人生を送る努力をしているだけでしてよ。……それを実行するのに、たまたま武器が必要で、たまたま魔王が邪魔で、たまたま神をブン殴りたくなっただけのことですわ」
「そんな“たまたま”があってたまるものか。……まったく、どこの覇王だ」
「覇王エトランジュ。悪くない響きですわね。おほほほほほ」
と、そんな小粋なトークをしているうちに着きました。
白く巨大な石造りの門。霊廟だと言われてもなるほど納得の神々しく荘厳なたたずまい。難攻不落という言葉が自然と浮かぶ。
素材に使われている石は人間世界にもある大理石より純粋な白で、推測するに天国固有の石材だろう。ざっと見積もっても総工費金貨100万枚は下るまい。
ネコタローが言うには長年国交を断絶し、侵入者を拒み続けてきたこの門を建造したのは天国側らしい。なんでも、もともとは天国と地獄をつないでいた時空回廊から互いに行き来していたのを、何らかの理由で往来を禁じるため天国側が門を建設。以降、往来する手段は失われてしまった。ネコタローが生まれるずっとずっと以前の話だという。
今となっては当時どういう経緯で門が作られることになったのか知る由もないが、今後のことを考慮すればこの機会にいつでも通れるようにしておきたい。
猫型移動要塞マカロンを操縦しているイグナシオに更に門へと接近してみるように指示をする。すると、ご丁寧に難解な謎解きまで用意されていることがわかった。
天国の住人たちは、どうあっても地獄の悪魔を通したくないらしい。
さて、どうしたものか?
――選択肢は三つある。
選択肢①
→謎を解いて門を開ける
我が地獄の軍団はワタクシをはじめ、文武両道才色兼備の知恵者ぞろいだ。中でもエリト、イグナシオ、アホーボーンは抜群の知性と知識を誇る。多少時間はかかるかもしれないが、必ずや謎を解いて門を開けてくれることだろう。
選択肢②
→力ずくでこじ開ける
少々エレガントさには欠けるものの、力ずくで門をこじ開けてしまうという手もある。こちらには怪力無双のクックとアリアがいる。二人が力を合わせれば、いかに天国の住人が叡智を集結させて建造した門だろうと、無事ではいられないはずだ。
選択肢③
→ブッ壊す
シンプル・イズ・ベスト。
これにしましょ。即断即決、善は急げですわ。
「猫型移動要塞マカロン、主砲発射用意!」
右手を振り上げて指示するワタクシに「やっぱりね」という顔を向けながらも、イグナシオがてきぱきとコントロールパネルを操作する。
「主砲ローゼンハンマー、エネルギー充填80……90……100%。発射準備完了だよ、お姉様」
「ちょ、ちょっとお待ちください! よろしいのですか、ご主人様!?」
慌てた様子で進言する侍従長のヒッヒ。その表情には場合によっては身を挺してでもワタクシの暴走を止めねば!という決意の色が見える。その忠義には心から感謝したい。
されども魔王城攻略戦のときと違って、天国の門は未来の住居として大切に残しておきたい物ではない。それどころか将来の往来の自由を実現するには、はっきり言って邪魔だ。
ここは、ちゃちゃっと排除してしまおう。
神々しく荘厳なたたずまい?
総工費金貨100万枚?
そんなの関係ありませんことよ。
それに――
「ジュエルを取り戻す障害になるものは、誰であろうと何であろうと問答無用で破壊あるのみですわ」
「ヒッヒ。どうやら破壊神と化したご主人様をお諫めしても無駄のようだ。諦めよう」
そう言って忠義者のヒッヒの肩をポンと叩く、宰相にして総参謀長のエリト。
破壊神エトランジュか。
神と戦うからにはそれぐらいの肩書があってもいいかもしれない。
ま、それはともかく長らくお待たせいたしました。
「ファイエル!!(撃てっ!!)」
合図とともに勢いよく右手を振り下ろす。
ズギューーーーーーーーーーゥゥゥンンンッッ!!!!
凄まじい閃光とともに轟音が響き渡る。激しい振動に一瞬バランスを崩しそうになる。
正面の大窓は砂埃に覆われていて視界ゼロ。しかし、時間の経過とともに次第に状況が明らかになっていく。そこには、それまで絶対的守護者として君臨していた天国の門がどてっぱらに大きな風穴を開け、くだんの時空回廊が顔をのぞかせている姿があった。
シンプル・イズ・ベスト。
やはり選択肢③で正解だったようですわね。
「さて、それでは皆さん。天国へまいりますわよ」
……おっと、いけない。ワタクシとしたことが忘れるところでしたわ。
地獄の悪魔たちが天国へ自由に行き来するのは一向に構わないけれど、天国の住人たちが勝手に地獄へ出入りするのは認めない。
天国からの侵入者への警告として一筆したためておくとしよう。
この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ
魔王エトランジュ・フォン・ローゼンブルク
これでよしと♪
こうして我が地獄の軍団による天国への侵攻――
後世に『神々の黄昏(ラグナロック)』と呼ばれる戦いの第一歩が踏み出されたのであった。
※『神々の黄昏』の神々(複数形)には、天国の神の他に地獄の神(魔神、邪神、破壊神=全部ワタクシのこと)が含まれているらしい。
なんてこった!!
第2部 天国編
第1幕
完