エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode138
悪役令嬢、神に啖呵を切る。
天国の神殿の最奥部に向けて進軍を再開する我ら地獄の軍団。
静かに怒りを燃やしながら一歩、また一歩と先へ進む。
それはさながらマグマがふつふつと煮えたぎる火山のようであり、噴火直前のカウントダウンのようでもあった。
「ようこそ、地獄の魔王さんとそのお仲間の皆さん。こんにちは、ボクが神だよ」
ひと際広い空間に出たところで、少年らしき声が直接頭の中に響く。
仲間たちも顔をしかめ、耳を抑えながらも周囲への警戒を強める。
「あはははは。そんなに警戒しなくてもいいよ。相手はこのボク、神なんだから。ボクがその気になったら、キミたちなんて一瞬で消滅しちゃうんだから警戒するだけ無駄だよ」
「言ってくれるじゃありませんの。しかし、いくら神でもこの地獄の魔王エトランジュ・フォン・ローゼンブルクとその仲間たちを、そうやすやすと消滅させられるとは思えませんけれど?」
「なにぃぃ!?」
何もないところに白い神官服に似た衣装に身を包んだ少年の姿が浮かび上がる。
この程度の挑発にいともたやすく乗ってくるとは、見た目通り、少なくとも精神年齢は少年のようだ。
ふてくされた顔をしているが、それはワタクシが挑発をしたからであり、少女と見まがうほどの美しい顔立ちをしている。
生意気でプライドの高いお姫様――それが神への第一印象だった。
神に出会ったら問答無用でボコボコにして差し上げようと思ったのに、なんだか肩透かしを喰らった気分だ。
その神にカサカサと不快な動きですり寄るゴキゼブブ。左右の手のひらをすごい勢いですり合わせてもみ手をしている。
「おお、神よ! こやつらこそ天国に戦争を仕掛けてきた不届き者! 神をも畏れぬ反逆者たちでございます!! どうか神の怒りを!! どうぞ神のお力で天罰を与え給えぇぇ!!」
「うん、わかった。ボクが天罰を下してやろう」
「え? 貴方、そのどこからどう見てもインチキ臭いGの親玉の言うことを信じますの? 自分が騙されているとは思いませんの?」
「ゴキゼブブは長年、神であるボクに仕えてくれている忠実なしもべだ。それにボクは全知全能の神、森羅万象を司る神だよ? 騙されるわけないでしょ。何言ってんの、あはははは」
このクソガキ!
……おっと、いけない。
ワタクシとしたことが、つい汚い言葉を使ってしまいましたわ。
曲がりなりにも神との対話なのだから、ここは冷静に、ここはエレガントに。
「は? 全知全能? 森羅万象? よくもそんなことが言えるものですわね。冤罪で処刑されたワタクシとスイーティアが地獄へ堕ちるのを見過ごしたくせに。善良なお父様とお母様が不審な事故死を遂げているというのに何一つしなかったくせに。どう考えてもおかしな死に方をしたジュエルが今度は天国で洗脳されたことも知らないくせに。貴方、本当に神ですの? 罪もない人が何人も死んでいるじゃありませんの。何のための神なの? 天国でボーっとしているだけで神と言えますの? 神なら神らしく、ちゃんと働きなさい!!」
ふん、言ってやりましたわよ。
言っているうちに、つい興奮してしまい冷静さもエレガントさもどこかへ吹き飛んじゃいましたけど。
「な……? なっ……!?」
神は二の句を告げずに金魚のように口をパクパクと動かしている。
よし。このまま追撃といこう。
「まあ、ワタクシとて悪魔ではありませんから、貴方が反省するというのなら許して差し上げてもよろしくてよ? ただし、ワタクシの両親と、希望するならスイーティアとジュエルも生き返らせて人間世界でもう一度、今度は幸せな人生を送れるようにすることを要求しますわ。もし、この要求が受け入れられない場合、神は無能な子供だという事実が地獄全土、人間世界全土に知れ渡る羽目になるでしょうね。おほほほほほほほ」
「ひゃは☆ さすが、ご主人様。神様を脅すなんてカッコいい~♪」
「人間世界では悪役令嬢だの、稀代の悪女だのと言われてきたお嬢様ですが、ここまでくれば立派なものですよ。私、むしろ感動しちゃいました」
なぜか目を潤ませて微笑んでいるスイーティア。
よくわからないけれど、まあ本物の天使である彼女に喜んでもらえたようで何よりだ。
「た、たかが人間のくせに……! たかだか地獄の魔王の分際で……! このボク……万物の創造主たるこの神に向かって何たる暴言の数々!! こんな屈辱は初めてのことだ!! 絶対に赦してはおけない!! 神の裁きを受けるがいい!!」
こうして、後世に『神々の黄昏(ラグナロック)』と呼ばれる最終戦争の最終楽章が始まったのであった。
楽器はもちろん、神とゴキゼブブの悲鳴と断末魔だ。