キマイラ文庫

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エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode124

悪役令嬢、全部見られていました。すみません。

 亡き両親が天国から見守ってくれていると心のどこかで信じていた。

 信じてはいたけれど、まさか本当に毎日のように見ているとは思わなかった。

 正直なところ生前死後に関わらず、とても両親には見せられない行動をしたことは一度や二度どころの騒ぎではなく、両手両足で数えてもまったく追いつかないという自覚がある。


「えーと……、お父様? ワタクシのことをずっと天国から見守ってくださっていたの?」


「ああ。そうだよ、エトランジュ」


「お亡くなりになられてから、ずっと?」


「ずっとだよ、エトランジュ」


 答えるお父様はいつもの笑顔だ。

 愛が深すぎて辛い……。


「さすがにお前が処刑されるところだけは目を逸らさずにはいられなかったがな……」


 心痛な面持ちで娘の死を悼むお父様。

 お母様がそっと寄り添って互いを慰め合う。

 たった一人の愛する娘をギロチンで処刑されたのだ。その心中やいかばかりか。

 きっと今も悲しみをこらえて、努めて明るく振る舞うようにしているんだろうな。

 お父様もお母様もいつだってワタクシのことを一番に考えてくれているのだ。


「だが、お前が我が領地でファイアドラゴンを噴火寸前の火山火口ごと埋め立てたのは、痛快だったぞ。死霊群がる古代遺跡で魔導書(グリモワール)を手にした冒険では年甲斐もなく手に汗握ってワクワクしたものだ」


 そうですか。そういうのは全部見ていたんですね。



「地獄に堕ちてからの名場面の数々も素晴らしかったなぁ。ワルサンドロス商会の本拠地での巨大ロボットとの世紀の一戦や、サキュバス一族のアリア姫との一対一の激闘は手に汗握ったよ」


 そうですか。ワタクシが闇魔法ギガンテスで巨大化した場面も、闇魔法ドラゴニアンで暗黒竜化した場面も、こちょこちょ攻撃のせいで鼻水とよだれまみれになった場面もバッチリご覧になられたわけですね。


「いや、こう見えて私も若い頃は烈風のウォルフなんて二つ名で呼ばれるぐらいの少しは名の知れた剣士でね。お前が地獄に堕ちたときはハラハラしたが、魔王に至るまでの道のりには血沸き肉躍ったし、さすが我が子と感心したものだよ。はっはっはっ」


 はっはっはっ。ワタクシは穴があったら入りたいですけれども。

 先程から背中を伝う冷や汗が止まらない。


「あなた」


 上機嫌で笑うお父様に対して、お母様の鋭い視線と声が飛ぶ。


「あなたがそうやってエトランジュを甘やかすから、こんなのに育っちゃったんですよ」


 こんなのて。

 お母様が辛辣すぎて辛い……。


「愚か者の国王陛下に命じられたとはいえ、闇魔法の禁呪を城内でブッ放して500年の歴史を誇るエーデルシュタイン城を破壊したこと」


 どきっ!


「いくらスイーツの仇を討つためだとしても、復讐相手のご令嬢方の部屋を見るも無残なウン●まみれにしたこと」


 どきっ! どきっ!


「嫁入り前の娘がはしたない……。まったく誰に似たことやら」


 すみません。たぶん、お母様似だと思います。

 いかん。戦況はかつてないほど悪い。

 このままでは無条件降伏、一直線。

 そうなれば早いところワタクシを嫁に出して、お淑やかなレディになってほしいと願っているお母様の思うがままになってしまう。

 話題を変えねば!!


「そ、それにしてもお父様もお母様も、よく洗脳されずにいらしたものですわね」


「おお、そうだった。そのことについて説明せねばなるまいな」


 ポンと手を打ってワタクシの疑問に対して説明をはじめようとするお父様。

 その隣でお母様がチッと舌打ちをして「うまく逃げたわね」とつぶやくのが聞こえたが、聞こえなかったふりをして、ここは全力で流れに乗っかっておく。


「幸か不幸か、私たちは生前信心深かったからクリーニング工場へ送り込まれることはなかったのだよ。しかし、天国で過ごすうちにどうも様子がおかしいのがわかってきてね。盲目的に神を信じ、一言でも神を否定するような発言をしたら洗脳工場へ強制連行される世界……。まるで独裁国家に移住したような気分だったよ。同じように息苦しさを感じている人はたくさんいてね。天国の辺境で彼らと共に静かに穏やかに暮らしていたのさ」


 狂信的な独裁国家である天国と相容れない正常な感覚を持った少数派が、避難するように辺境へ落ち延びたというわけか。

 不幸な事故で死んでしまった両親が天国で苦しい生活を強いられていたらどうしようかと心配したが、静かに穏やかに暮らしていたというお父様の言葉を聞いて少し安心した。

 毎日のようにワタクシの動向をチェックしていたぐらいだから、お父様の言葉は事実なのだろう。


「しかし、エトランジュが天国に来ることを知って、しかも相手が神だと知って、居ても立っても居られなくなって、辺境でこそこそと隠れるようにして暮らすのはやめて、彼らと立ち上がることにしたんだよ」


「彼ら……?」


 頃合いと判断したらしいお父様が合図を送ると、あたりからゾロゾロと人が現れた。

 年寄りもいれば、若者もいる。

 年齢も性別も異なるが、いずれも整った身なりをしており、生前は相応の地位にあった人物だということがわかる。

 しかし、質のいい生地を使っているという共通点があるだけで、彼らの服装は時代がまちまち。まるでエーデルシュタインの服飾史図鑑から飛び出してきたようだ。


「驚いたようだね、エトランジュ。紹介しよう。彼らは我がローゼンブルク家のご先祖様たちだ」


 え……?

 ご先祖様……?


「エトランジュ。お前に伝えておきたいことがある。驚かずによく聞いておくれ」