エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode111
悪役令嬢、クリーニング工場へ行く。
「こんな暴挙、神がお許しになるはずがない!」
「天使様がご降臨なされて、お前たち地獄の悪魔を皆殺しにすることだろう!」
「悪魔め! 天の裁きを受けるがいい!!」
口々に呪詛の言葉を並べ立てる天国の住人たち。
「天の裁きですって? 上等ではありませんこと。やれるものなら、さあやってご覧なさいな。おほほほほほ」
「や、や、やめろ! この地獄の悪魔どもめ! やめろと言って……ぎゃははははははは!!!? や、やめ、うひぃぃぃぃぃいいい!!?? も、もう、やめ、ひぃぃぃぃいいぃぃぃぃいいい!!!!」
見るも無残、聞くも残酷な凄惨極まる地獄の光景が容赦なく繰り広げられる。
すべては彼らを洗脳から救いたいがゆえ。ワタクシはあえて心を鬼にしているのだ。断じて楽しんでいるわけではない。
「お嬢様、邪悪な笑顔になっておられますよ」
専属メイドのスイーティアがそっと耳打ちしてくれる。
「あら、いけない。ワタクシとしたことが。おほほほほほ」
天国にいるはずのジュエルの居場所を聞き出すこと、無辜の天国の人々を洗脳から解放すること、この二つを同時にやってのける方法として思いついたのが拷問だ。
「拷問というから何をするのかと思えば、こういうことか……」
呆れたように話しながらも、ネコタローが裸足になった天国の住人の足の裏をしっぽで器用にこちょこちょする。
「んぎぃぃぃいぃぃぃ!! もう勘弁してぇぇぇぇ!!!!」
いかに神と天使が強力な洗脳を施そうとも、こちょこちょ地獄の前には無力同然。抗うことはできまいて。
洗脳には洗脳を。より強力な刺激を与えることで洗脳を上書きする。さすれば彼らも柔順になって、あっさりとジュエルの居場所を教えてくれるだろう。
「エトランジュちゃん。うまくいったわよ。この子、洗脳が解けたみたい」
吉報を告げにやって来たのは獣人三姉妹のケル、ベロ、スーだった。
「スーも一緒に頑張ったのでスー」
末っ子のスーが愛らしいしっぽをフリフリする。
なるほど。持ち前のモフモフを武器に三人がかりで拷問したのか。
見ると、連れて来られた女性の髪は乱れ、汗と涙と鼻水とよだれで顔面がぐちゃぐちゃになっていて、息も絶え絶え、虫の息だ。
気の毒に。あんなモフモフに三人がかりでこちょこちょやられたら、たとえ神でも泡を吹いて失神するに違いない。
「この女が言うには、天国へ来た人間のうち信仰心が薄いやつは最初にクリーニング工場とかいう場所に強制的に連れて行かれるらしいぜ。十中八九、そこで洗脳されてんだろうな。エトランジュの幼馴染ってやつもそこにいるんじゃねえか?」
次女のベロが引き出した情報を報告する。
俗世の垢にまみれて神を信じぬ人間の心を綺麗さっぱり洗脳し、神と天使を盲信する信者へと仕立てあげるための工場か。クリーニング工場とはよく言ったものだ。
「時間が惜しいですわ。ジュエルが洗脳されてしまう前にクリーニング工場とやらへ急ぎましょう」
スピード重視で最低限の人数だけを伴い、工場へ急ぐ。
同行するのはネコタロー、ヒッヒ、シュワルツ、イグナシオ、ケル、ベロの5名のみ。その他の仲間たちは引き続き天国の住人たちの洗脳を解いてもらうことにした。
情報を引き出した後でもちゃんとアフターケアまでして差し上げるワタクシは慈愛の女神のようだと自画自賛してみる。誰も言ってくれないから。
幸いにしてクリーニング工場までの距離は短く、猫型移動要塞マカロンを飛ばせば10分もかからなかった。
そこで待ち受ける門番たちとの戦い……はなく、警備の守護天使たちとの激しい戦闘……もなく、拍子抜けするほどあっさりとクリーニング工場に侵入することができた。
よくよく考えれば、天国に来た人間たちは自分たちが選ばれた人間だと信じて、まさか洗脳されるとは思わずに大人しくしているから、門番も警備も不要なのだろう。
工場内は完全に自動化されていて、次々と送り込まれてきた人間を洗浄ならぬ洗脳していく、まさに工場と呼ぶに相応しい施設だった。
真っ白な石造りの工場には人っ子一人おらず、ただ銀色の無機質な機械たちが無言で洗脳される人間がやってくるのを待っているだけだった。
「ヨウコソ、天国ヘ。アナタハ神ニ選バレシ人間デス。今カラ天国ノ住人ニナッテイタダクタメニ洗浄シマス。動カナイデクダサイ」
ワタクシたちを天国に送り込まれた人間だと認識したのだろう。
機械たちが取り囲み、何やら物騒な武器にしか見えないような器具を向けてくる。
「ねえ、ヒッヒ。これは無辜の民とは違うようだから破壊してもよろしいですわよね?」
「はっ、ご主人様のお心のままに」
「ねえ、イグナシオ。ここの設備は貴重なものなのかしら?」
「貴重は貴重だけど、壊れても僕とアホーボーンで直せるから遠慮せずに壊しちゃって大丈夫だよ、お姉様」
「それは重畳。ではお言葉に甘えて遠慮なくやらせていただきましょうか」
「おうよ、姐さん。久しぶりのドンパチだ。腕が鳴るぜ」
愛用の銃を両手に構えるシュワルツ。他の仲間たちもすでに臨戦態勢に入っている。
これは長らく使っていなかった闇魔法を思う存分に撃ちまくれる絶好の機会だ。
神との戦いを前に、準備運動としてもちょうどいい。
神への宣戦布告として、ここは一発、景気のいいやつをド派手にブッ放して差し上げるとしよう。
「暗黒星よ。闇に煌めく星々よ。我が呼びかけに応え、怨敵を殲滅せよ。メテオ」