キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode135

悪役令嬢、Gの王。

 両親を奪われた地点からマカロンの全速前進で30分ほどの距離へ移動したところで、真っ白な雲に囲まれて宙に浮かんでいる神々しい建造物が見えた。

 そのひときわ豪奢で巨大な建造物は、一目見て天国の神殿だと確信するに相応しい威容を誇っていた。

 ワタクシ、ネコタロー、アホーボーンの三大魔王による闇魔法攻撃で、神ごと跡形もなく消し飛ばしたい衝動にかられるが、両親が人質に取られているため、そうもいかない。

 仕方なくマカロンを天国の神殿へ接岸し、上陸。神殿内部で両親を捜しながら徒歩で攻略することにした。


 途中の戦いは苦難苦闘の連続だったが、これは割愛する。

 なぜって、神殿内部に現れたのは当然Gたちだったから。

 いくら仲間たちが苦難苦闘を乗り越える目覚ましい活躍ぶりを見せてくれたとはいえ、Gたちとの戦いを詳細に思い出すなんて悪夢でしかない。だから割愛する。

 特殊ゴーグルのおかげで見た目は叔母夫婦だったから幾分かはマシだったけれど、Gたちのカサカサ動く音やブブブブブという羽音までは変換できず、いまだ耳に残り、脳裏にこびりついている。

 今夜は悪夢にうなされることになりそうだ。


 迫り来るGたちをなぎ倒していくこと約1時間が経過……体感時間では3倍、精神的な疲労感は更にその3倍にも感じたが、やっとの思いで天国の神殿の中央部と思われる場所にたどり着いた。

 金色に光る像。

 真っ白な石造りの祭壇にもふんだんに純金を使用した装飾が施されている。

 ここは天国の他の施設とはどこか違う雰囲気がある。神聖さを上回る成金趣味を感じる。


「ぬはははははは! 地獄の魔王を僭称する愚かな人間な小娘よ! この神聖なる神の国、天国に弓引くとは神をも畏れぬ身の程知らずめ! 神の使徒である我ら天使に対する度重なる攻撃、赦しがたき所業である!! よって天罰を下す!!」


 高笑いとともに突然現れて叫びだす変なおっさん。

 声の主は、金色に輝いている像とそっくりだ。

 できればあまりお近づきにはなりたくないタイプだが、両親を人質に取られている以上、このまま知らんぷりというわけにもいかないだろう。


「どちらさま……?」


「ワシの名は、神の使徒たる天使(ゴキブリ)の王、大天使キングジョージ・ゴキゼブブ13世であーる!!」


「Gの王……? ゴキゼブブですって……?」


 見た目は変なおっさんだが、身なりは上級貴族や王族のそれに近い。

 なるほど、王というのもあながち虚言ではないのかもしれない。

 頭にはぴょこんと飛び出した触覚、背中には見覚えのある黒光りする羽を生やしている。

 この男(オス?)が王なら、抹殺すればGを殲滅できるまたとない好機かもしれない。


「どうやら、Gの親玉のご登場のようですね。いかがいたしましょう?」


 隣で総参謀長のエリトが耳打ちする。


「殲滅よ、殲滅。殲滅あるのみですわ」


 他の仲間たちにも目で合図を送る。

 しかし、その動きはすぐにゴキゼブブに察知される。


「おっと、妙な真似をするんじゃないぞ。一歩でも動いてみろ。人質がどうなっても知らないぞ~?」


 ゴキゼブブが手を上げると、背後から半人半Gに改造された叔母夫婦が縄で拘束された両親を引き連れて現れた。


「お父様! お母様!」


 二人ともじっとワタクシのほうを見ている。それは命乞いではなく、自分たちはどうなっても構わないから自分の信じる道を征きなさいというメッセージを込めた覚悟のまなざしだった。


「抵抗すれば、お前の両親は二度と転生すらできないように魂ごと消滅してやる。だが、ここでお前が大人しく殺されてくれるなら、そして地獄の魔王の座をワシに譲ると約束するなら、その誠意に応えて両親もその他の親族も全員このまま天国で暮らせるようにしてやる。どうだ、悪くない取引だろう? んん~?」


「お断りですわ」


「な、なっ!? なんだと!?」


「お嬢様、いいんですか!?」


「いいのよ、スイーティア。どうせウソに決まっていますもの」


「おい、ちょっと待て! 聞き捨てならんぞ! 天使がウソを吐くわけがないだろう! しかもワシは大天使なのだぞ!?」


「人質を取るような輩の言葉なんて信じられるはずがないでしょう。貴方が大天使だというのも本当かどうか怪しいものでしてよ」


「ぐっ……! この、言わせておけば、生意気な人間の小娘が……!!」


「お父様とお母様に万一のことがあったとしても、あとで神をボコボコにして脅迫してでも復活させれば問題ないですわ。魂を消滅? それがどうしたというの? 神を名乗るぐらい、消滅した魂の一つや二つ簡単に復活させられるでしょ。だから、ワタクシを相手に人質なんて通用しませんことよ。おほほほほほほほ」


 これはハッタリだ。愛する両親の魂をおいそれと犠牲にするような賭けに出るはずがない。

 相手にとっても我が両親は虎の子の人質。脅しに使うことはあっても本当に消滅させてしまっては人質の意味がない。そんなことをすれば、ワタクシがここまで天国に与えた損害の賠償をさせることもできず、取引不成立の大損確定となる。だから、両親に手出しできない。

 そこまで計算してのハッタリだ。

 決して、Gの王を始末したいがために強引に事を運ぼうとしているわけではない。


「ええいっ! ならば力ずくだ! 貴様に天罰を喰らわせてくれるわっ!!」


 よし! 計算通りですわ!


「おほほほほほ。力ずく、大いに結構。望むところですわ」


「おい、貴様たち! あの小娘の親族なのだろう! さっさとあの小娘を始末しろ!!」


 大天使を名乗る男が叔母夫婦に命令する。

 しかし、その肩書とは裏腹に先程から漂う小物感がすごい。


「あら? 大天使の貴方が天罰を下すのではなくって?」


「ぬはははははは! ワシは大天使だぞ! 暴力反対なのだ! さあ、洗脳された親族を攻撃することはできまい!! さあ、殺せ!! あの小娘を殺すのだ!!」


「やれやれ、言ってることが支離滅裂ですわね……」


 ゴキゼブブに命じられた叔母夫婦が、ワタクシめがけて一直線に襲い掛かってくる。

 彼らは洗脳されている。いくら半人半Gに改造されて性能が上がっていても、命令に忠実に行動するだけの機械と同じだ。必然その動きは単調なものとなる。


 ズギューン!

 ズギューン!


 両手に握った愛銃が火を噴く。

 そして今度こそ正確に叔母夫婦の眉間を撃ち抜く。


「な、な、なんで撃った!!?」


 目ん玉ひんむいて叫ぶゴキゼブブ。


「なんでって……殺られる前に殺るのは淑女のたしなみでしょ?」


「そんな淑女がいてたまるか!! 人質となった両親を見捨て、洗脳された親族を躊躇なく撃つ!! お前はそれでも人間か!? この鬼!! 悪魔!!」


「いいえ、ワタクシは魔王でしてよ? おほほほほほほほ」


「く、くそっ!! うわぁああん、神様ぁぁぁ~~~!!!!」


 情勢不利と見るや恥も外聞もかなぐり捨てて、光の速さで逃走するゴキゼブブ。

 呆れた仲間たちは立ち尽くしたまま追走することもできずにいる。

 それはいい。それよりも今はお父様とお母様のことだ。

 叔母様と義叔父様は……後回しでいいだろう。

 お父様とお母様に駆け寄ったジュエルとスイーティアが二人を束縛していた縄をほどき、無事であることを確認している。

 ワタクシは両親に近づき、深々と頭を下げて謝罪する。


「お父様。お母様。……ごめんなさい」


 いくら勝算があったとはいえ、両親が人質に取られていたのに強硬策を採用したのだ。

 それに元はと言えばワタクシの油断が招いた事態だ。

 どれだけ謝罪しても充分ということはない。


「私たちのことは気にせずに早く行きなさい、エトランジュ」


「え?」


 見ると、お父様が優しい笑顔でこちらを見つめている。


「ワタクシたちが見ていると、遠慮して全力を出せないでしょ? ワタクシたちのことは気にせずに思いっきり自分が正しいと信じることをやり抜きなさい、エトランジュ」


「お母様……」


 お父様とお母様がそっと近づいて、ゆっくりと優しくワタクシを抱き締めてくれる。

 温かい……。


「貴方がどういう道を選ぼうとも、貴方はワタクシたちの娘よ」


「ああ、自慢の娘だ」


「……ありがとう。お父様。お母様」


 ワタクシ、全力を出してしまってよろしいのですわね?

 自分が正しいと信じることは、相手がいかなる存在であっても、どういう手段を用いても、やり抜いてよろしいのですわね?

 両親からの許可は出た。

 ここからは武器と闇魔法の無制限使用を解禁しよう。

 場合によっては、この天国の存在が消し飛ぶかもしれないけれど、神と天使たちはそれだけの罪を犯したのだ。その代償はきっちり耳をそろえて支払ってもらわねばならない。


 両親にはアリア親衛隊を護衛に付けてマカロンまで戻ってもらうことにした。

 すでに応急措置を済ませた叔母夫婦の治療というか修理のために、イグナシオにも一緒に後方へ下がるように指示をした。


「イグナシオ。叔母様と義叔父様のこと、よろしく頼みますわね。場合によっては改造しても構いませんわよ」


「うん、わかった」


 ワタクシとイグナシオのやり取りを聞いたお父様は、何とも言えない複雑な顔をなさっていた。

 これがお父様自慢の娘が正しいと信じた道ですが、何か?