キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode120

悪役令嬢、敵飛行物体と交戦する。

「ご主人様。進軍に向けて万事整いましてございます」


地獄の宰相にして総参謀長のエリトが準備万端整ったことを告げる。

ここは猫型移動要塞マカロンのデッキ。ワタクシは座り慣れた艦長席に座っている。


「猫型移動要塞マカロン、発進!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ。


ワタクシの合図に呼応してマカロンが離陸する。

向かうは神がいるという天国の神殿だ。

現地に着いたらすぐさま神殺し……。もとい、まずは交渉か。

天国へ侵攻してからそれなりの時を刻んだはずだが、不思議なことにいまだ神や天使たちからの反撃がない。クリーニング工場で群がってくる機械たちと一戦交えただけだ。機械は自動制御だったから神に反撃の意志があったわけではない。


神にせよ天使にせよ、おおかた天国に攻め入ってくる者などいないと高をくくっているのだろう。一般的な常識に照らし合わせれば確かに天国に攻め込もうなどという不届き者はいないかもしれないから、その気持ちは理解できないでもない。

しかし、ワタクシは魔王エトランジュ・フォン・ローゼンブルク。一般的な常識なんて知ったこっちゃありませんことよ。おほほほほほ。


さて、神との最終戦争をおっぱじめるにあたり、我が地獄の軍団の精鋭を改めて紹介しておきたい。


  エトランジュ    魔王

ヒッヒ       侍従長、魔王軍魔剣士団長

クック       将軍、魔王軍超肉兵団長

ヒャッハー     遊び人、魔王軍魔弓兵団長

ネコタロー     飼い猫、最高裁判長

スイーティア    専属メイド、スイーツ大臣

エリト       宰相、総参謀長

シュワルツ     将軍、魔王軍魔導兵器団長

イグナシオ     財務大臣、魔導兵器開発大臣

ケル        将軍、魔王直属獣王機動隊長

ベロ        魔王直属獣王殲滅隊長

スー        魔王直属獣王遊撃隊長

アリア       魔王直属近衛隊長 ※アリア親衛隊は魔王直属近衛隊を兼任

アホーボーン    (本人の強い希望により)無職

ジュエルバトラー  専属執事(たまに暗殺者)


ワタクシの独断と偏見と適材適所に基づいた組織編成ではあるが、別に構わない。ワタクシは魔王なのだから。もともと好きでなったわけではない魔王、せめてこのぐらいは自由にさせてもらいたい。

先代魔王アホーボーン体制で要職についていた悪魔たちから不平不満の声が上がることを覚悟していたけど、誰一人として文句を言ってこなかった。

先代魔王アホーボーンと先々代魔王ギルティアスを配下に従えた組織図になっているため、多少不満はあったとしても誰も文句を言い出せないのかもしれない。地獄は完全実力主義なのである。


罪人として地獄の刑罰を受けに来たはずのワタクシが魔王になることに関しても何ら抵抗はなかった。

出自が地獄の最下層であるヒッヒ、クック、ヒャッハーがそれぞれ要職にあることについても同様だった。我こそはという者がいるのであればいつでも彼らは挑戦を受けるし、実際に何度か挑戦はあったらしく、そのいずれもことごとく退けたため、ヒッヒたちは今も変わらず我が地獄の軍団の幹部だ。


能力と実績に相応しい陣容。この組織図を眺めるたびに誇らしい気持ちになる。

この少数精鋭の極致とも言える我が地獄の軍団をもってして、神と天使の心胆寒からしめて差し上げよう。ふっふっふっ。


ドガーン!!


独り悦に入っているところに突然の衝撃音と振動。

水平飛行していた黒猫型移動要塞マカロンが一瞬大きく傾く。


「何事ですの!!?」


「敵さんからのご挨拶だ! どうやら天使どものお出ましのようだぜ、姐さん!!」


ワタクシが言うのも何だけれども、宣戦布告もなしにいきなり攻撃してくるとは。

神は平和主義、博愛主義と聞き及んでいたが、所詮は噂、あてにならないものだ。

それにしてもワタクシに奇襲を仕掛けるとはいい度胸ではないか。褒めて差し上げよう。

だが、我は地獄の魔王エトランジュ・フォン・ローゼンブルク。天使が何するものぞ。返り討ちにしてくれるわっ。


「迎撃なさい。主砲三連斉射」


「はいよ、姐さん! 主砲三連斉射!!」


シュワルツが嬉しそうに復唱し、主砲を発射する。

この戦闘狂(バトルジャンキー)め。

しかし、これでも将軍、これでも魔王軍魔導兵器団長だ。お手並み拝見するとしよう。


「イグナシオ坊ちゃん! 例の音楽もお願いしますぜ!!」


「はいはい、わかったよ」


やれやれと言った様子でイグナシオがボタンを押すと、艦内に音楽が流れ始める。

シュワルツ曰く、勇ましい音楽で仲間たちの士気を高める効果を狙ってのことらしい。

今流れているのは地球の作曲家リヒャルト・ワーグナーによる楽劇《ワルキューレ》第3幕への前奏曲『ワルキューレの騎行』。

なるほど確かにこの曲を聴いていると気分が高揚してくるのがわかる。


「主砲三連斉射!」

「インフェルノミサイルver.666改、発射!!」

「接近戦に備えてWSCバルカン地獄改の準備をしろ!!」


迎撃の任にあたるシュワルツの指示で、黒猫型移動要塞マカロンに搭載されたワルサンドロス商会印の魔法科学兵器が次々と放たれ、前方の敵影に命中、爆炎を上げていくのが見える。


「ちっ! 数が多すぎるぜ! 姐さん、こいつぁキリがねえや!」


言葉とは裏腹にシュワルツは嬉々としている。楽しくて仕方がないと言った様子だ。

本当にこの戦闘狂(バトルジャンキー)ときたら……頼もしいばかりだ。


「……ん?」


正面から飛来する無数の黒い影が見える。

あれが天使……?

でも、なんだか黒いですわね。


「あれが天使ですの?」


「そうだよ、お姉様。僕が事前に調査したデータとも合致する。あれは間違いなく天使の軍団だね」


アホーボーンが断言する。

彼がそう言うからには間違いない。普段はやる気がないだけで、やる気さえ出せばできる子なのだから。

そうこうしている間にも、どんどん黒色の天使たちとの距離が縮まっていく。


「敵との距離700……600……500……! ここからは接近戦だぜ、姐さん!! 総員、衝撃に備えやがれ!!」


黒い天使の軍団が目視できるところまで近づいてきた。


ブブブブブブブブ。

ブブブブブブブブブブブブブブブ。


不気味な羽音を立てながら接近している黒色の飛行物体。

その正体は、こともあろうかワタクシがこの世でもあの世でも唯一苦手とする最恐にして最凶にして最悪の災厄、あの黒光りして神出鬼没で1匹見たら100匹はいると言われる増殖する恐怖の生命体――

ゴキブリだった。


ぎゃあああああああああぁぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!!??????