キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode133

悪役令嬢、空中戦再び。

 Gたちとの空中戦が始まってから数分が経過。

 群がるGは一向に減らないが、確実に一匹一匹仕留めていく。その一撃一撃が世界の平和につながるのだから。

 戦いを指揮する我が地獄の軍団の将軍にして魔王軍魔導兵器団長のシュワルツのリクエストにより、艦内には先程から音楽が流れている。

 シュワルツ曰く、モデスト・ムソルグスキーによる交響詩『禿山の一夜』という楽曲らしいが、なんだかやたらとおどろおどろしい曲だ。

 まあ、迫り来るGたちとの戦いに相応しいと言えば相応しい選曲だが。


「なあ、エトランジュや。その妙な眼鏡をしていると、ゴキ……いや、Gがビリーヌとラギールに見えるというのは本当かい?」


 呆れたような、困り果てたような表情で尋ねてきたのは親愛なるお父様。

 ビリーヌとは叔母のビリーヌ・フォン・ランデール、ラギールとはその夫である義叔父のラギール・フォン・ランデール、つまり親愛ならぬ叔母夫婦のことだ。

 お父様にとって叔母様はたった一人の可愛い(?)妹。その妹がG扱いされているとなると、いい気分はしないのだろう。

 しかし、その叔母がワタクシに対してどういう態度を取って来たのか、ずっと天国から見守って来たお父様にはわかっているから、やめさせることも叱ることもできない。


「おほほほほほ。それはとっても愉快ですわね、エトランジュ」


 一方のお母様は大変お気に召したご様子だ。

 生前は義理の妹である叔母様には、随分と嫌がらせを受けたみたいだから当然か。

 お互い義理の妹には苦労する。まあ、ワタクシの場合、義理の妹と言っても実際には従妹なのだけれど。


「あなたはビリーヌさんに甘すぎますのよ。ワタクシが彼女にいびられているときも助けもせずに、まあまあと間に入って取りなそうとするだけ。どうして妻であるワタクシを守ってくださらなかったの?」


 おっと。お母様が攻勢に出た。

 これはお父様に分が悪い。額から流れ出る冷や汗をハンカチで拭うのが精一杯だ。


「ねえ、イグナシオちゃん。ワタクシにもエトランジュと同じゴーグルをもらえないかしら?」


 ここぞとばかりにお母様の攻勢が続く。

 まさか攻撃に参加するなんて言いませんわよね?

 そのときは怖いけれど全力で阻止するとしよう。


「こんなこともあろうかと予備を用意してあります。はい、どうぞ」


「んまっ。イグナシオちゃんったら、用意周到ね。さすがだわ」


 両手を広げてイグナシオに抱きついた後、彼の頭をなでなでするお母様。

 ママに褒められてイグナシオもご満悦だ。

 うん。お母様もイグナシオも上機嫌。この調子なら、例のアレを思いのほか早くに試すことができそうだ。


「イグナシオ。アレの準備を」


「え? アレをやるの? ……わかったよ。黒猫型移動要塞マカロン、コンバーチブル、オープンモード」


 イグナシオがボタンを操作すると、ウィーンという機械音とともにデッキを囲んでいた壁……外から見ると黒猫の顔にあたる部分がパカッと割れて、デッキがむき出しに開放されたオープンモードになる。

 これこそマカロン修復時に仕込んでおいた、とっておきの仕掛けだ。

 何を目的にこんな仕掛けを施したかというと、マカロンで走行中または飛行中においてもデッキから闇魔法を撃てるようにするためだ。

 前回のGとの空中戦ではちょっとしたミステイクでマカロンを顔面ごと吹き飛ばしてしまったが、これでもう大丈夫。

 ワタクシの辞書に『反省』の文字はないけれど、だからと言って同じ轍は踏まない。

 風圧や気圧の問題も魔法技術でクリアしている。

 これでワタクシも憂いなく攻撃に参加できるというわけだ。


「おほほほほほほほ」

「闇の光よ、我が敵を滅ぼせ。ダークアロー」

「暗黒星よ。闇に煌めく星々よ。我が呼びかけに応え、怨敵を殲滅せよ。メテオ」


 飛行するマカロンから闇魔法を撃ちたい放題。

 G……いや、叔母夫婦を次々と撃墜していく。

 気分は撃墜王。

 楽しくって仕方がない。


「ははっ。まるで姐さんが主砲みてえじゃねぇか。……ったく、誰がこんな恐ろしい怪物を産んだんですかいねぇ?」


 愉快痛快と言った表情で、からかうようにお母様に視線を送るシュワルツ。

 当のお母様は素知らぬ顔で口笛を吹いている。


「あ、あれは……!? 待てっ!! 撃つんじゃない、エトランジュ!!」


 突然、お父様が珍しく大声で叫ぶ。

 しかし、相手はGだ。

 いくらお父様の願いでも、そればかりは聞けない。

 G、殲滅すべし。

 Gたちに明日はないのだ。


 こちらに向かって急速接近してくるG(叔母夫婦)めがけて闇魔法ダークアローを放とうとしたところ、側面から思いがけない衝撃が襲ってくる。

 G!!?

 ……いや、違う。お父様だ。

 お父様がいきなりワタクシに飛びついてきたため、二人とも床に倒れ込んでしまったのだ。


「お父様? 一体、何を……?」


 起き上がろうとすると、目の前に叔母夫婦が立っている。

 しまった!!

 なんたる不覚! Gの侵入を許してしまったか!!

 ここはメテオで殲滅するしか――


「やめるんだ、エトランジュ! あれは……! あれは私の妹だ!!」