魔法捜査官
喜多山 浪漫
第4話
『Nightmare(悪夢)』<16>
食堂に戻ると、ようやく3人の魔法使いが息を吹き返していた。
と言っても、ミスターは椅子に座ったまま天井を仰いでいるだけ。アルペジオは真剣な表情で左右の足をマッサージしている。
そう言えばアルペジオは戦時中から生きている、おじいちゃんだった。外見上は僕よりも少し上ぐらいにしか見えないが、ひょっとすると百歳に届いているのではないか。そんなおじいちゃんを全力ダッシュさせたのかと思うと、ずきりと心が痛む。これからは、もう少し労わってあげようと思う。
元気なのはローリングサンダーぐらいで、もう立ち上がってストレッチをしている。これが若さか……。
「こちら管制官。聞こえる?」
オラクルから響く声に全員が反応して、こちらを見る。
「はい。こちら風馬。聞こえています」
「上への報告に時間がかかったけど、そちらへ所轄の警察を向かわせることになったわ。間もなく応援が来る。それまで安全な場所で待機するか、出口が近いなら外へ退避するようにして」
「わかりました。現在地は館内の食堂です。鍵をかけて、厨房のほうもチェックしましたが安全の確認は取れています。魔法使い3名の消耗が激しいため、この場で待機することにします」
「了解。所轄にはそのように伝えておくわ」
「あの、管制官……」
「何?」
「ありがとうございます。……それから、その……すみません」
この窮状を見かねて援護を送ってくれたことへの感謝を轟管制官に伝える。
付け加えた謝罪は、警察官ともあろう者が包丁を持っていたとはいえ女性相手になすすべもなく追い回された失態に対してのものだ。
「あなたたちの任務は魔法犯罪の解決であって、包丁を持った女を制圧することじゃない。謝罪は不要よ」
それだけ言うと、轟管制官は返事も聞かずに通信を切った。
……カッコいい。
僕は心の中でもう一度「ありがとうございます」とつぶやいた。
「はぁ~。今回ばかりは管制官に感謝でんなぁ」
「まったくです。あの管制官殿がこんなに気を配ってくれるなんて驚きですよ」
ぼそりと「驚き、轟、山椒の木……なんてね」とアルペジオが付け加えたのが聞こえたが聞こえなかったことにしよう。見た目よりも大幅に年齢をくっている事実がわかってからというもの、僕の中で築かれてきたアルペジオ像がガラガラと崩れていく気がする。
いや、まあ年齢とか見た目とか関係なく、大切な相棒であることには違いなんだけど。
でも、なんだか感覚が狂う。
「何言ってんだ、てめえら。轟の姉御が優しいのは、元からだぜ?」
私立鳳凰学園の事件のときもそうだったが、ローリングサンダーは轟響子管制官をリスペクトしているように見える。
安全を確認できたものの、一歩部屋を出ればここは恐怖の館。応援が駆け付けるまで、少しでも怖さを紛らわせるために二人の関係を聞いてみるのもいいかもしれない。
「ローリングサンダー」
「なんだい、ダーリン?」
もはやダーリンと呼ばれるのが当たり前になってしまっているが、ここは諫めるよりも我慢して続ける。
「轟管制官との付き合いは長いのかい?」
僕の問いにローリングサンダーが遠い目をしながら語り始める。
「ああ。あれは、そう……。アタイが中2のときだった……」