魔法捜査官
喜多山 浪漫
第5話
あるいは幕間狂言『G――黒いアイツ』<2>
遠くから声が聞こえる。
何だか懐かしい響きだ。
「捜査官殿……! 捜査官殿、しっかり……!」
「う、ん、んん…………」
身体を優しく揺さぶられて、次第に意識が明瞭になっていくのがわかる。
誰かに起こしてもらうなんて、いつぶりだろう。まだ自宅から学校に通っていた高校生のとき以来か。
「はっ!?」
そうだ。僕はいつの間にか気を失ってしまったのだ。
確か、ここは警視庁で、地下5階にある魔法犯罪捜査係……。
ゆっくりと、混乱する頭を整理していく。
見上げると、そこには今にも泣きだしそうなアルペジオの顔があった。
どうやら僕は倒れていて、アルペジオの膝の上で抱きかかえられる格好になっているらしい。
急に恥ずかしくなって、顔が火照るのが自分でもわかった。
慌てて上体を起こして、しゃがんだまま相棒と向き合う。
「良かった……。このまま目覚めなかったら、どうしようかと思いましたよ」
アルペジオが泣き笑いのような表情で僕を見つめる。
「いや、あの、その……面目ない」
照れくさいやら情けないやらで頭をかきながら詫びる。
いてて。
かいた頭に痛みが走る。そっとなでてみると後頭部が少し腫れている。そこで思い出した。突然襲い掛かって来た、あの黒くおぞましい飛行物体を緊急回避するため、僕は大きく後ろにのけぞった。そして、そのまま受け身を取る間もなく、後頭部をしこたま床にぶつけて不覚にも気絶してしまったようだ。
いくら思いがけない奇襲を受けたとしても、受け身ひとつ取れないとは柔道四段が聞いて呆れる。まだまだ修行が足りないな、僕も。
「危うく命を落とすところでしたね、捜査官殿」
「ええ。命拾いしました。もし、やつが僕の顔面をとらえていたら、今頃、僕は生きていなかったでしょう……」
アルペジオの声がなかったら、緊急回避もままならなかっただろう。
あの黒光りする飛行物体……。
間違いない。
あれは人類の敵――Gだ。
その動きは一瞬で最高速度に達し、しかも予測不能で神出鬼没。敵に回してこれほど厄介な存在はいない。ある意味、鏑木よりも強敵だ。
「……で、アルペジオさん。今、やつはどこに?」
アルペジオは目を閉じて首を横に振る。
「見失いました。この部屋のどこかに身を潜めているようですが……。今も息を殺して、じっと私たちを観察しているのでしょう。戦況の不利は変わっていません。私たちが少しでも油断を見せたら……GAME OVERです」
ここには殺虫剤もなければ、拳銃もない。人間じゃないから柔道の技も効かない。
相手は人類よりも遥か太古の昔から、白亜紀も氷河期も生き残ってきた生命力の権化だ。素手で相手をするのは、あまりにも危険。自殺行為だ。
ここは判断のしどころだ。
どうするべきか……?
<選択肢>
魔法で戦う
拳銃を取りに行って戦う
死を覚悟して素手で戦う
どの選択をするにせよ、命懸けだ。僕もアルペジオも五体満足では済まないだろう。
究極の選択だ。