キマイラ文庫

魔法捜査官

喜多山 浪漫

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目次

魔法捜査官

喜多山 浪漫

第5話

あるいは幕間狂言『G――黒いアイツ』<6>

 希望の光。

 光の勇者。

 ……と、その称号はともかくとして、期待させるだけさせておいて竜崎係長はあっけなく散った。

 いや、それでも仁王立ちしたまま身じろぎもしないのは大したものである。数多の修羅場をくぐってきた猛者だからこそ為せる業か。

 竜崎係長を始末したGは、僕たちを睨みつけながらホバリングしている。目がどこにあるのかわからないので実際に睨んでいるのかどうかは不明だが、そう感じる。そう感じさせるだけの殺気を放っている。


 ……ん?

 そういえば今更ながら気が付いたけど、Gってホバリングできるんだっけ?

 ホバリングできる生き物は少ないという話を聞いた覚えがある。ヘリコプターのように空中で停止飛行できる生き物は鳥類だとクマドリやクマバチが有名だ。昆虫類だと、確かトンボができるとかできないとか……実際に子供の頃に河原でトンボが空中で羽ばたきながら停止しているのを見た記憶がある。

 しかしだ。Gがホバリングできるという話は寡聞にして知らない。僕の知識が拙いだけかもしれないけれど、Gはホバリングできないはずじゃないのか?

 それなのに次の獲物を舌なめずりするかのようにじっくりと僕たちを見据えているGは、悠々と、間違いなくホバリングしている。

 案外、やつは本当に鏑木が放った刺客……魔法生命体(ゴーレム)なのかもしれない。


「みんな! ここからは竜崎係長の弔い合戦よ!」


 意気消沈かと思いきや、生き残った僕たちを奮い立たせるように轟管制官が声を上げる。

 この人はすごい。やっぱり根っからの指揮官だ。


「ええ! いざ竜崎さんの仇です!!」


「竜崎はん。あの世から見守っておくんなはれ。ワテらもすぐに行きますよってに」


 アルペジオとミスターの瞳にも力が宿っている。ミスターに至っては、我が身に代えてもGを葬る決死の覚悟だ。


「風馬くん! 魔法使用制限解除LV20! 今度こそGを仕留めるのよ!!」


 魔法の使用制限がLV10からLV20と一気に倍になった。

 これなら勝てる!!


 ……そんなふうに考えていた時期が僕にもありました。

 しかし、現実は違いました。


 使用できる魔法がLV20に上がったとて、すばしっこくカサカサカサカサと動き回るGの動きを捉えることができず、全体魔法を駆使して範囲攻撃を試みるも、こちらの損害が増すばかりでGに対して一向にダメージを与えられない。

 焦燥。

 プレッシャー。

 恐怖。

 そして、死の予感……。


 精神的に追い詰められている分だけ、アルペジオの魔法の精度も落ちてきている気がする。LV100を超える魔法使いでも、中身は人間だ。この状況下で落ち着いて狙いを定めろと言うほうが無茶だ。


 カサカサカサ。すばやく移動するG。

 カサカサカサ。あらゆる隙間に入り込むG。

 カサカサカサ。突然現れては飛来してくるG。


 やむを得ず反撃に出るものの、LV20になって魔法の威力が上がった分だけ被害が甚大になっていくばかり。山積みされた書類は紙吹雪のように散らばり、デスクも椅子も損壊。重要な情報の詰まっているPCまでもが破壊されていく。

 たった1匹のGに翻弄されている。

 いずれ日本……いや、世界はGに侵略され、人類は死滅するに違いない。


 それでも抵抗を諦めないアルペジオが魔法を放ち続ける。

 ミスターもそれを必死にサポートする。

 しかし、二人の魔法使いの抵抗もむなしく、ついにMP(マジックポイント)を使い果たしてしまった。

 万策尽きた。もはや抗うすべは残されていない。


 無力感にさいなまれる僕たちをあざ笑うかのように、Gがカサカサカサカサとジグザク走行しながら床を、壁を、天井を自由自在に這いまわる。まったく体力の衰えが見えない。やる気も満々だ。


 ああ。もうおしまいだ。

 僕たちはこのまま一人一人、Gになぶり殺しにされていく運命なのだ。


「捜査官殿」


 隣にいたアルペジオがそっと右手を差し出してくる。


「どうやら、お別れの時が来たようです」


 アルペジオの瞳は満足げだ。

 そこには、やるべきことをやり遂げた男だけが放つ優しい光が宿っていた。

 僕は黙ったまま、彼の右手をぎゅっと握り返した。


「捜査官殿。いえ、風馬くん。キミと出会えたことを、私は……」


 アルペジオはそこで言葉に詰まる。目から涙がこぼれている。

 言わずともわかる。僕だって同じ気持ちだ。

 彼とバディを組んだ期間は短いけれど、僕の人生にとってかけがえのない時間だった。

 残念なエンディングだけど、悔いはない。

 最後に素晴らしい相棒に巡り合えたのだから――