魔法捜査官
喜多山 浪漫
第5話
あるいは幕間狂言『G――黒いアイツ』<5>
まだほんの数分しか経過していないのに、アルペジオもミスターも消耗が著しい。二人とも、ぜえぜえと息を切らしている。MP(マジックポイント)には余裕があるものの、攻撃したところで当たらないのでは、MPの無駄遣いでしかない。
だからと言って何もしないわけにもいかず、Gが動きを止めた瞬間や、Gの動きを先読みして炎以外の属性魔法攻撃を試みるも命中せず。僕たちをあざ笑っているかのようにカサカサ、カサカサと動き回る。苛立ちのあまり、脳の血管がブチ切れそうだ。
このままでは体力・精神力ともに限界に達するのは時間の問題。そうなれば、無力な僕たちはGの餌食になるしかない。何とか打開策をひねり出さないと……。
ガチャリ。
そのときだった。不意に部屋の扉が開く音が響いた。
「……どうした? これは何の騒ぎだ」
それは魔法犯罪捜査係係長・竜崎巌、その人だった。
ダークスーツを身にまとい、トレードマークのシルバーアッシュの髪が今日も決まっている。こんな歳の重ね方をしたい。そう思わずにはいられない落ち着いた大人の雰囲気をまとっている。
竜崎係長が室内を見渡す。彼が取り仕切る魔法犯罪捜査係は、Gと魔法バトルを繰り広げたせいで、無残な有り様になっている。マスコットキャラクターのニャンゾ~の身体からは白い綿がはみ出し、ネコミは半身が黒焦げになっている。あとでローリングサンダーに謝らないと……。
こうして冷静に戦場を見渡すと、今更ながらちょっとやり過ぎた気がする。……いや、ちょっとじゃないか。
「風馬。説明しろ」
低く響く声には、静かな怒りが込められているのが伝わってくる。
うひー。怖い。
でも、僕が悪いんじゃない。
……などという言い訳は通りそうもない。猛禽のような鋭い目が、ずっと僕を見据えている。係長を納得させる答えを用意しないと殺される。
「あ、あの係長。これはその……」
最後はごにょごにょと口ごもる。
竜崎係長は、ふぅと呆れたようにため息を漏らし、視線を轟管制官のほうに移す。
「轟管制官。あなたが一緒にいながら、どうしてこんなことに?」
鉄の女・轟響子管制官も、捜査一課から叩き上げてきた竜崎係長から比べれば、踏んできた修羅場の数が違う。竜崎係長に問い詰められて、しゅんとうつむいて小さくなるしかなかった。
「う……。その……。ま、誠に申し訳――」
轟管制官がしどろもどろになりながら、ぺこりと頭を下げて顔を上げる。
「あ」
管制官の眼鏡の奥にある瞳が大きく見開かれ、あんぐりと口を開ける。
何事かと思って彼女の視線を追ってみると……。
ブーン。
「「「あ」」」
僕も、アルペジオも、ミスターも、声をそろえて茫然とその瞬間を見届ける。
ゆっくりと飛来してきたGが竜崎係長の額にぺとりと止まった。
束の間の静寂。
まるで時が止まったかのように、僕たちは息をするのも忘れて事の成り行きを静かに見守るしかなかった。
パチパチパチ。
静寂を破ったのは我が相棒アルペジオだった。
竜崎係長を尊敬のまなざしで見つめ、惜しみない拍手を送っている。
「おおー。すごい。さすがは竜崎さん。Gの攻撃を受けても微動だにしないとは。まさに動かざること山のごとし。信玄公もかくやという冷静沈着ぶり。実にお見事。お見事にござりまする」
静止したまま瞬き一つしない竜崎係長を褒めちぎるアルペジオに対して、隣にいたミスターが左腕で本場仕込み(?)のツッコミを入れる。
「いやいや。アルペジオはん。あれは気絶してるだけでんがな」
巨星、堕つ。
竜崎巌。魔法犯罪捜査係係長。享年51歳。二階級特進。
歴戦の勇者である竜崎係長さえもGの前にはなすすべもなく一撃のもとに葬られた。