キマイラ文庫

魔法捜査官

喜多山 浪漫

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目次

魔法捜査官

喜多山 浪漫

第6話

『Satanism(悪魔崇拝)』<3>

「いずれの被害者にも生活反応があり、生きたまま殺されたことが判明している」


 管制官が聞きたくもない情報を付け加えてくれる。

 いや、聞きたくないのは偽らざる僕の本音だが、これからダイブすることを考えれば必要な情報ではある。なにせ被害者の記憶の中の世界には、その苦しみを再現するかのようなおぞましい姿の魔法生命体(ゴーレム)が現れるに決まっているのだから。知っていると知っていないとでは事前の心の準備が違う。

 オラクルに写し出された画像を並べてみると、被害者の遺体が常軌を逸した損壊状態であるだけではなく、大きく二種類の特徴に分類できることがわかった。いずれも僕の記憶に鮮烈に残っている殺人鬼たちの手口によるものだ。


 一つは記憶に新しい連続殺人鬼(シリアルキラー)・時任暗児の手口だ。被害者は全員若い女性である。

 もう一つは日本の魔法犯罪史に残る、かの悪名高き新宿ニルヴァナイト猟奇通り魔事件。その被疑者、逆咲夢郎(さかざき ゆめろう)の手口に酷似している。

 逆咲は被疑者死亡で処理された新宿ニルヴァナイト猟奇通り魔事件よりも以前に、殺人事件を起こしていた。それは逆咲の死後、家宅捜索によって発覚したことで、自宅には11人分の遺体があった。

 それもただの遺体ではない。逆咲の自室には、まるで芸術家のアトリエのように殺害された人間が飾り付けられていたのだ。

 ある者は切り刻まれた後に幾何学模様に組み立てられていた。ある者はバラバラにされたうえに手は足に、足は手に、頭は局部に、局部は頭にと、あべこべな位置に接着されていたという。

 目の前の痛ましい遺体の状態に奇妙な既視感を覚えた理由が今になってわかった。僕が初めて間近に触れたトラウマとも言える魔法犯罪。それに触れたからだ。


「すでに気づいているとは思うけれど、被害者の遺体は逆咲夢郎と時任暗児の手口に酷似している。しかし、逆咲は新宿ニルヴァナイト猟奇通り魔事件の際に死亡した。時任は言うまでもなく、あなたたちの手によって逮捕されて今はアルカディアに収容されているから完璧なアリバイがある。よって、捜査一課は模倣犯の犯行と断定した。私も同意見よ」


 順当な推理。僕も同意見だ。

 しかし、一方で気になる点もある。

 有名な犯罪者を英雄と崇めて模倣犯罪に走る愚か者は、ごく稀ながら一定数存在する。模倣犯の仕業と仮定するならば、わざわざ逆咲と時任の手口、二種類に分けて実行する理由がわからない。それに同時多発的に発生したのも不自然というか、異常だ。とても単純な模倣犯による犯行とは思えない。


「それから、もう一つ。それぞれの犯行現場には魔法陣らしき痕跡が残されていた」


 轟管制官の言葉に導かれるように画像に目を落とすと、なるほど、どの犯行現場にも円陣と五芒星が赤い線で描かれている。模様の周辺には英語ではない異国のものらしき赤い文字が刻まれている。赤い線も赤い文字は、おそらくは被害者の血液だろう。


「捜査官殿。この魔法陣、あの洋館で見たものとよく似ていませんか?」


 オラクルに写し出された画像を横から見て指摘する。

 そう言われてみれば確かに……。


「捜査一課は、逆咲・時任に心酔している複数の模倣犯による犯行であり、被疑者は悪魔崇拝するカルト教団の関係者という筋読みをしているそうよ。被害者は悪魔崇拝の儀式の生贄というわけね。上層部は魔法テロの可能性も視野に入れて公安および政府とも連携を始めているわ」


 魔法テロに公安に政府か。随分物々しい話になって来た。

 すべての現場に魔法陣があったことからカルト教団関係者による悪魔崇拝の儀式と筋読みした捜査一課の推理は理解できる。

 しかし、逆咲も時任も悪魔崇拝者ではなかった。やつらは人間の心を持たない異常犯罪者だ。悪魔そのものであったとしても悪魔崇拝者ではない。

 だとすれば、やつらに心酔して犯行を模倣するにしても悪魔崇拝の儀式は蛇足であり、余計な手間でしかない。それは模倣犯の行動原理とは矛盾するのではないか。わざわざ手の込んだ儀式をするからには、必ず何らかの意味があるはずだ。

 だが、その意味するところは現時点では判然としない。真相を知るためにもダイブして、被害者の記憶の世界を捜査する必要がある。


「悪魔のことは悪魔に聞くのが一番だ。助っ人を手配しておいたぞ」


「ひゃっ!?」


 アルペジオと二人きりのはずの霊安室に、いきなり背後から男の声がしたから何事かと思って飛び上がってしまった。

 よく知っている声なので恐る恐る振り向くと、そこにはいつもながらの鋭い眼光を放つ竜崎係長がいた。


「か、係長……。ビックリさせてないでくださいよ」


 まだ心臓がバクバク言っている。

 これで死んだら労災は下りるのだろうか。


「で、何の御用でしたか?」


 驚きのあまり係長が口にした言葉をちゃんと聞き取れなかった。

 係長は、やれやれ仕方ないといった表情で一つため息を吐いてから繰り返した。


「悪魔には悪魔をと思ってな。助っ人を手配した」


「悪魔……? 竜崎さん。あなた、まさかあの方を……?」


 アルペジオが普段は柔和な顔をこわばらせる。

 あの方って、どの方?

 先程から悪魔という単語が飛び交っているが、まさか本物の悪魔ってことはないよね?


 アルペジオの口ぶりから察するに、どうやら彼よりも目上の人物らしい。これからダイブで被害者の記憶の世界に入る僕たちの助っ人と言うからには、魔法使いであることが推測できる。

 だけど、目上と言っても先の大戦よりも以前から生きていて、しかもLV100を超える魔法使いのアルペジオの目上にあたる人物など、果たしてこの世に存在するのだろうか。想像もつかない。

 それこそ悪魔でもない限りは……。