魔法捜査官
喜多山 浪漫
第5話
あるいは幕間狂言『G――黒いアイツ』<1>
これは久しぶりの休暇で溜まりに溜まっていた疲れを癒し終えた、ある朝の出来事――
地下鉄を乗り継いで桜田門駅4番口を出ると、晴れ晴れとした空が迎えてくれた。眩しい日差しを心地よく感じ取りながら、警視庁庁舎に入る。
ここから暖かな日差しが決して入ることのない地下5階へと向かう。今日も山積みされた書類と格闘する予定だ。魔法犯罪が発生しない限り、明日の朝まで日を浴びることもないだろう。
「おはようございます」
休暇明け早々に陰鬱になりそうな気分を晴らすため、快活な朝の挨拶を意識して扉を開ける。
……あれ? 返事がない。
どうやら今朝は僕が一番乗りのようだ。
「しっ。お静かに、捜査官殿」
と思ったら、アルペジオがいた。
だが、姿が見えない。
魔法か?
いや、そんなわけないか。グリムロックで魔力を封じられているのに魔法を使えるはずがない。
「ここです、ここ」
声の主を探そうと視線を動かすと、僕のデスクの下で丸くなって隠れているアルペジオを見つけた。
何やってんだか……。いい歳して、かくれんぼ?
そういえば、魔法犯罪捜査係に配属されて初日。同じくこの部屋に入ったときもアルペジオがこんなふうに出迎えてくれたことを思い出す。あのときはデスクの下じゃなくて、天井にぶら下がって隠れていた。
「捜査官殿。早く、こちらへ」
しかし、あのときとは異なり、アルペジオが焦燥を隠しきれない様子で手招きしながら急かす。
どうもおかしい。出勤してきた僕を驚かせるために隠れていたわけではなさそうだ。
彼の表情は、魔法犯罪現場で時折見せる緊張した面持ち……。いや、何だったら今まで見たことがないほどの恐怖と焦りが入り混じっているようにも見える。
まさか鏑木がまた何か仕掛けてきたのか。
鏑木は世界有数のハイレベルな魔法使いだ。厳重な警備をかいくぐって、警視庁への出入りすることなど容易くやってのける。
緊急事態と判断し、身を低くかがめながらアルペジオの待つデスクの下へと速やかに移動して小声で状況を確認する。
「アルペジオさん。何が起きているんですか?」
「やつが現れたのですよ、捜査官殿」
やつ……。やはり鏑木か。
鏑木が現れたとなると、グリムロックで魔法を封じられたままのアルペジオに勝ち目はない。現時点で鏑木の最大レベルは不明。LV100を超えるアルペジオを凌駕するとは考えたくないが、相手の戦力がわからない以上、持てる最大戦力で迎え撃つのが戦術の基本だ。
「捜査官から管制官に連絡。魔法犯罪捜査係に指名手配犯・鏑木が出現。魔法の使用を許可願いま───」
「危ない、捜査官殿! 後ろです!!」
回り込まれた!?
慌てて振り向く。
だが、そこには……。
僕の顔目がけて漆黒の未確認飛行物体が一直線に飛んで来た。
「うわああああぁああああああぁあああああああぁあああああぁあああああああああああああぁあああああぁあ!!!!?」
僕の意識はそこでプツリと途切れた。